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水戸家庭裁判所土浦支部 昭和53年(少)1-1974号 決定 1979年6月25日

少年 T・K(昭三七・九・一〇生)

主文

少年を中等少年院に送致する。

理由

(非行事実)

少年は、

一、公安委員会の運転免許を受けないで、

(1)  昭和五三年八月一三日午後八時七分ごろ、千葉県銚子市○○○×××番地付近道路において、第一種原動機付自転車を運転し、

(2)  同年九月九日午後三時五五分ころ、同県香取郡○○町○○○○付近道路において、第一種原動付自転車を運転し、

(3)  昭和五四年一月二四日午後八時ころ、同県銚子市○○○町×××番地付近道路において、普通乗用自動車を運転し、

(4)  同年四月三日午後四時五〇分ころ、茨城県鹿島郡○○町○○○○×××-×付近道路において、第一種原動機付自転車を運転し、

(5)  同月一七日午後九時ころ、同郡○○町○○○○×××番地付近道路において、普通乗用自動車を運転し、

二、A、B、Cと共謀のうえ、同月三〇日午後三時四〇分ころ、同郡○○町○○○○×××番地○○○海岸に駐車中の普通乗用自動車内において、トルエンを含有する自動車ボデー充填用ボンドをビニール袋に入れてみだりに吸入したものである。

(適用法令)

一の各事実につき  道路交通法一一八条一項一号、六四条

二の事実につき   刑法六〇条、毒物及び劇物取締法二四条の四、三条の三、同法施行令三二条の二

(処遇理由)

一、少年は、幼時に父が家出して以来所在不明の父欠損家庭で育ち、母も生活に追われ勝ちで定見のあるしつけ、教育を施すことができず、また能力的に劣る(IQ=75、偏差値29、新制田中B式第一形式、限界域)ことなどから学校生活にも十分適応できずに満足な学校教育をも受けずに過ごし、他方で実兄(二の非行の共犯である)やその友人らの影響を受けるなどして次第に遊びに没頭して怠惰かつ放恣な生活を送るようになり、窃盗、シンナー吸引、自動車やバイクの無免許運転、家出などの問題行動を繰り返すようになつた。本件各非行は、そのような不安定かつ無軌道な生活振りを背景とするものであるが、少年は、本件各非行ののちの昭和五四年五月一二日警察での取調べを受けたことなどから親戚の者の自動車を無断で持ち出して家出し、同月三〇日までの間、車の中やモーテルなどに寝泊りし、見ず知らずの家出人グループに声をかけて一時行動を共にしたり、盗みをして飢えをしのいだりの生活を続けたりしている。少年のこれまでの行動を概観すると、その非行は恵まれない環境の中での抑圧された自己の表現という傾向が強いのであるが、右のように次第にその行動範囲を広げて来ており、その非行の経過を仔細に検討すると、昭和五二年二月一六日窃盗で不処分決定を受け(その際調査官は少年の基本的問題点を指摘したうえ保護観察の意見を提出しているので、調査及び審判の段階において当然問題点の指摘がなされている筈である)、昭和五三年五月一二日恐喝、窃盗により保護観察処分を受けたのに、その保護中に本件各非行に及び、また本件一の(5)、二の各非行は一の(1)ないし(3)の各事実につき昭和五四年四月四日審判を受けて(その際に非行をしない、家出をしたり徘徊したりしない、保護司との接触をよくすることを約束している)経過観察のため審判続行中に敢行したものであり、自己の置かれた立場や周囲の働きかけに対する配慮のなさが顕著である。少年の非行性は、深化の一途を辿つていると認められる。

二、少年の基本的な問題点としては、能力的に劣り、十分な判断力と主体的な行動力がなく、自己を制禦できず、一時的な快楽に走り勝ちであること、社会性が未熟で仕事に対する定見もなく、あきつぽく、転職を重ねていること、基本的なしつけ、教育が殆んどなされていないこと、何事につけ自信がなく、少し突つ込まれるとすぐ狼狽し、黙り込み、困難に遭遇すると家出などの逃避的行動に及ぶこと、母親には保護能力はなく、兄は少年の非行化を助長している面も窺われることなどを指摘することができる。これら少年の抱える問題は、人格、環境の両面にわたつて深刻な問題性を含み、前記のようにかなりの期間にわたつて多方面の非行が持続してきていることをも考え合わせると、少年の予後は暗く、このまま放置すればますますその非行性を深化させて将来非行を重ねることは必至である。

三、そのような少年の問題点の改善のためには、規則正しい生活訓練、集団生活などを通して主体的判断力、積極性、表現力、持続力、抑制力などを涵養し、合わせて基本的なしつけ、教育の補充をなし、健全な生活体験を得させて更生意欲をかきたて、成功体験を得させて自信をつけさせるとともにしつかりした職業観を樹立する必要があり、中等少年院に収容して矯正教育を施す必要があるが、前記のような諸種の問題点を考えると、一般短期の処遇によつて十分その効果を期待しうるかについてはいささか疑義のあるところではある。しかし、少年の非行性は逃避的、自己主張的傾向の強いものであること、人格的には未熟さが目立つことなどを考えると、少年の能力に合わせて系統的に教育訓練を行い、機会を捉えて非行性の窺われる兄にも働きかけてその役割の自覚を促すなどすれば、いまだ一般短期処遇によつて改善の実を挙げうる段階にあるものと考えられ、今回は中等少年院における上記処遇に期待することとした。

なお、本少年については交通関係の指導をも合わせ行うことのできる施設が必要であるので、この点についても関係機関は留意されたい。

四、よつて、少年法二四条一項三号、少年審判規則三七条一項、少年院法二条三項を適用して、主文のとおり決定する。

(裁判官 山下満)

処退勧告書<省略>

〔編注〕 この少年は、静岡少年院に収容された。

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